池田清彦

科学はもともと、科学という方法によって説明できることしか説明できないし、世界には科学で説明できないことの方がむしろ多いのである。たかだか人の脳が理解できる範囲のやり方でもって、自然を全部説明しようというのは、そもそも無理なのである。人の脳は自然の一部である。一部で全体を説明するやり方に無理が生ずるのは、考えてみれば当たり前ではないか。 科学はもともと、くり返し観察される何らかの共通現象しか説明できないのである。個々人の生きる意味といった個別的な点に関しては科学は全く無力である。 自然現象の大半は、一回性のものであり、科学がコントロールできるものでも手におえるものでもないのだ。コントロール可能な世界にだけ住んでいると、時に人はそのことを忘れる。ふだん、それを忘れている人は、ある時自分の「心」と「体」がコントロールできないことを知って、あわてるのである。でも、自然のほとんどは、科学の説明の埒外にあるのである。